夜間。人の形をした化け物と、かろうじて人の形をした化け物が争っていた。
虎堂「はッ、はッ、ぜあッ!」
ユウカ「はんッ!」
虎堂の突き出した拳がユウカの剣に割り込まれる。
剣は砕け散るが、しかし焔となって歪み、虎堂の腕に巻き付き動きを封じる。
虎堂「ふんッ!」
虎堂が一つ唸り腕に力を加えると、巻き付いた焔は四散する。
しかし、その隙に。
ユウカ「くるり、と」
ユウカが華麗に一回転する。
その手にはいつの間にか黒く禍々しい有刺鉄線のようなムチが握られており、
まるで竜の尻尾のように虎堂を叩く。
華麗に一回転、と言っても騎士の速度での一回転である。
ムチの先端にはもちろん凄まじい速度が乗っていた。
虎堂「チィッ!」
虎堂は身構え、その一撃を受けた。
同時にユウカは顔をしかめた。
ユウカ(手応えが……?)
ムチは虎堂にあたった瞬間、凄まじい音を立てたもののそこで止まる。
直後、転送で空へ逃げたのは勘と転送を普段遣いしていたお陰だろう。
本当に髪の毛一本の差で、虎堂はユウカに『空月』を当てそこねた。
しかし、虎堂は明らかにユウカを迎撃する姿勢を取っていた。
ユウカ(逃げるのは簡単じゃが……動けなくしてからにしたいのう)
ユウカが逃げれば腹いせに何をするかわからない、目の前のそれはそんな騎士だ。
人の心を喪った者。人の心を取り戻すことを諦めた者。
正義が、夢が死に、恐怖し続けた者の終着点。
虎堂は確実な一撃に備え、己の内なる衝動を抑え込むように深呼吸をする。
虎堂「フゥ……スゥ……」
ユウカ(今ッ!)
落下しながら一回転し、手にしたムチを再び虎堂に振り下ろす。そして、虎堂が左手で掴む瞬間。
虎堂「ぬぅッ!?」
ムチは焔と散る。焔と散ったそれは形を変え断頭台の鎌と化し、
物理法則をあざ笑うように突如、回転から落下へベクトルを変化させる。
虎堂は突き出した左手を引き、右手で突き殺そうとする。
そして、右拳が鎌に触れた瞬間。虎堂は空に居た。
ユウカは血を吐く。一瞬で鎌を通じて体内に破壊エネルギーが流し込まれたのだ。
血を吐きながらも大地に手を触れる。虎堂の拳舞によりヒビ割れた大地に。
ユウカ「ねんねの時間じゃ」
大地が焔に包まれ、無数の金属のクナイと転じて虎堂に襲いかかる。
それも直線的なものだけでなく曲線的な軌道を取るものも含まれ、虎堂ではなく位置狙いのものもあれば、
一旦死角に消えてからえげつない角度で追っかけてくるものもある。
虎堂「しゃらくせぇッ!」
身動き取れないはずの空中で虎堂は我武者羅に動き、クナイを破壊しはたき落としていくが、やがて数の多さに負けて次々と突き立っていく。
やがて重たい音と共に地面に落ちたが、それでも立ち上がろうとする。
ユウカ「何というか、化け物じゃよなぁ……」
転送で素早く背後に回ったユウカは虎堂に触れ、若干抵抗力の弱まった身体に焔を流し込む。
虎堂「ぐ、ぬぅ……」
それでも虎堂の意識を奪い取るのがやっとで、強靭な内面を変化させることはできない。
ユウカは大きくため息をつき……まるで終わるのを待っていたかのように鳴り出すK-phoneを手にした。
ユウカ「余じゃが……」
清水「お忙しいところ、すみません。円卓の騎士本部事務員清水冬美です。魔獣討伐を依頼したいのですがよろしいでしょうか?」/