「天衣さんの眼って、夜空の色ですね」
「おや、随分と詩的な表現をするのですねぇ」
「すごく綺麗な碧だなって、ずっと思っているんです。新月の、星の光が冴える碧」
「.......そうですか」
「?あんまり嬉しくなかったですか?」
「いえ、そう言われたのは初めてでしたので」
「.......?」
天衣さんが屋敷から出なくなってもうすぐ半年になろうとしていた。
最近は「リモート」という便利な言葉が使えるので、探偵事務所の運営に支障はない。まぁ、限界があるので都度俺が出向いて指示を出したり要望を聞いたりはしている。
屋敷の中の天衣さんは存外普通に振舞っていた。もしかしたら、もう屋敷に篭っている理由を忘れているかもしれない。それでもあの人は、頑なに外に出るのを拒んだ。
「天衣さん」
俺は俺とて、いつまでも天衣さんにひっついてる訳にもいかなかった。世界の観測者は決まったタイミングで記録を提出しに行かなければならない。その期限がせまっていた。
「今日、俺、屋敷をあけます。観測者の集いがあるので」
「おや、そうですか。気をつけて行ってきなさい」
いつもの柔らかい笑顔。でも、どこか覇気に欠けた顔。
「.......あの、天衣さん」
何て声をかけようか。そう思うと同時に声にそれが出ていたが、ほぼ同時になった着信音にそれはかき消された。天衣さんは電話をとる。
.......久しぶりに見る、地獄への電話。
「もしもし、天衣ですが」/