*** 登 場 フ ェ イ ズ ***
時間:45分[1シーン:15分]
目的:魔獣の事件の調査に向かう
***シーン 隆聖***
「こどぉぉぉぉぉッ!」
「あん?」
昼間。あるビルから出てきた虎堂は、大通りに向けて歩いているところであった。
振り返ると、日本刀を持った少女が斬りかかってくるところであった。
速度も乗り、大上段から振り下ろしてくる。動きもしっかりしていて、このままならバッサリ致命傷だろう。
(他の野郎なら、な)
確かに強そうだ、見た目だけは。しかしその見覚えのある太刀筋は記憶の中のそれとは数段劣る。先程一時的に満たされた虎堂の闘争意欲を刺激するほどではなかった。
「てい」
気の抜けた声と共に、ヤクザキックをかます。突進する自身の勢いの乗った蹴りを受けて少女は悲鳴を上げることすら出来ずに後ろへ派手に吹っ飛ぶ。
一方、虎堂は首をかしげていた。受ける殺意、キレイな型の癖に相手が“あまりにも弱かった”からだ。
「骨が何本か逝ったみたいだな。よくもまあそんなへなちょこな身体で、あんな良い攻撃できるもんだ」
少女はフラフラと立ち上がるが、すぐに次の攻撃はできないようだった。一方、虎堂も少女を滅多打ちにしようとは思わなかった。久しぶりに「腹がいっぱいになるくらい」、大暴れした後だからだ。大人ぶってのうのうと言ってのける。
「駄目だぜ、刃物なんて振り回しちゃあよ」
周囲ではざわめき始めている。実際、白昼堂々の犯行を人々が目撃しているのだ。騒がれないはずがない。
「第一、何の恨みで襲いかかってくるんだ?」
少女が目をかっと見開く。怒りにブルブル震え、歯をがっしりと噛み締めながら前へ進む。
「忘れたのか!? 私を……何をしたのかをッ!」
「忘れた。知らん。雑魚の顔なんざ一々覚えてられるか」
虎堂は平然と言い放った。実際に忘れているのだ。あの太刀筋にはどこか見覚えがあるが……剣豪、男、人質、恋人。
「あ。」
虎堂がぽんと手をたたき、少女を指差す。
「お前、剣豪気取りの野郎の女か」
その後、
「あんな目に遭った上に恋人は犬死に、とっくの昔に首でも括ってるかと思ったが、まだ生きてたのか! ぶっ、くく、ははははは!」
腹を抱えて爆笑する。
「うわあぁァァァァァァァッ!」
少女が怒りに痛みも忘れ、遮二無二走り出す。不格好に刀を握りしめて突き立てようとする。
周りで悲鳴が上がる中、虎堂はニタリと笑う。人質として使えれば十分、どうせ一人では何も出来ない子供だとばかりと打ち捨てていたが、此れは中々。
(いい殺意だ。あのなまっちょろい身体でよくぞここまで……才能がある)
口角を吊り上げ、一歩踏み出す。一歩詰めた速さに少女が目を見開く。しかし、衝動で動き出した身体は止められない。刀を虎堂にぶつけようとする。
「フン」
虎堂は刀を素手でつかみ……あっさりと折り砕いた。そして、粉々に砕けていく刀を手に驚愕する少女を、そのまま鉄山靠で弾き飛ばす。
再びビルの壁に叩きつけられ動けなくなる少女を前に、虎堂は言い放つ。
「もっとだ。もっと強くなれるぞ、お前は。鬼だろうが修羅だろうが構わん、一流の剣士になれ。そうしたら、歯牙に掛けてやろう」
そして自分の首をとんとんと叩く。
「ここも取れるかもしれんぞ。ん?」
周囲の人々があまりのことに身動き出来ずにいる中、虎堂はニマニマと笑いながらそう言い放ち、動けない少女を尻目に歩き出す。
ちょうど一段落ついた事を見計らったように、ポケットの中でK-phoneが鳴動していることに気づく。
それを手にとった虎堂はズボンの生地に染み付いた血でべったり汚れていることに気づき、顔を軽くしかめながらロシアンマフィアの血を手の付け根でゴシゴシ拭い、電話に出る。
「はい、虎堂」
そして聞こえてきた依頼に、虎堂は狂喜を顔に浮かべた。