天衣勇雅。
俺の中では誰よりも強く微笑む、「最強」の格闘家。
裏の奉仕一族「音無家」の現当主であり、数々の脅威を退けてきた。
だが、忘れてはいけない。こればっかりは忘れたら俺でも怒られる。
彼の表の生業は「探偵」だ。
バケツをひっくり返したような雨が続く。
今日は電車が止まってこられない社員も多く(そもそも両手で数えるほどしかいないけど)、今日はのんびりと事務作業を片付けていた。
ワイシャツにスラックスという、気を許した時でないとみられない天衣さんを見て、すこしほっこりとする。
「天衣さん、お茶、淹れてきましょうか」
「おや、ありがとうございます」
天衣勇雅のそもそもの仕事は探偵だ。
頭脳明晰で警察関係にも力を貸してきた、まさに小説に出てくる夢のような存在。
あの「力」に気づかなければそこで終わっていたというのに。
……俺を、助けなければ、平和に人生を終えていたはずなのに。
「黒瀬君は不思議ですねぇ」
「何がですか?」
社員たちにお茶を配り終え、お盆を片付けようとドアに手をかけた時だった。
「どうしてこの雨の中、ぬれずにお茶菓子を買ってこれたのですか?」
ぎくり。ちらと天衣さんのほうを見ると、豆菓子のパッケージを手元で転がしていた。
「このお茶菓子、今ちょうど切らしてませんでしたっけ」
……やはり、どうあがいてもこの方には勝てない。
「……『観測』してました」
白状すると天衣さんはなるほどと大きくうなづいた。便利な力だ、とは俺も思う。
「貴方のこと、パートナーである以上はしっかり話しておく必要がありますねぇ」
無論、それがさす言葉は、「闇の存在としての天衣さん」だ。
俺は眉間にしわを寄せ、頭をかいた。
軽快な電子音。例の電話だ。
眉間のしわが深くなるのをよそに、天衣さんは電話をとった。
「もしもし、天衣ですが」/