「クロセエイスケ」はどこにでもいる概念である
気づいたらそばにいて、気づいたら何処にもおらず、もはや存在すらもあやふやな概念である
そんなものだから、刑事としての才を見抜かれた「黒瀬英介」も、いつしか全ての人間に忘れ去られる存在だった
そう、彼がその腕を掴むまでは
「天衣さん、暑くないんですか」
流れ出る汗を拭き取りながら黒瀬は隣のコートの男に問う。天衣は暑そうな素振りすら見せない
「暑いですが、大して苦しくはありませんよ。私、半袖がとても似合わないので」
「ですかねぇ?そんなこと無いと思いますが」
考えてみれば、天衣勇雅という男は観測者としての自分より若年でありながら、様々なことを乗り越えてきている。特に円卓の騎士に加盟してからの数年はハードすぎて自分でもついていける気がしなかった
「まぁ、今こうして、あの異常事態の生き残りの方のお見舞いに行ったわけだけど」
「容態が安定していて良かったですね」
「生きてることが不思議なくらいですよ。人間って脆いから」
「.......」
「.......俺、なんか変なこと言いました?」
「いえ、君が人間でないという事実に現実味がないなと」
「なんですか、それ」
おかしい。少し笑いそうになったが、師の発言に笑うなど失態極まりないので我慢する。天衣さんはそんな自分を見て、首を傾げた
「笑っていいんですよ」
「えっ」
「黒瀬くんは私より表情豊かなくらいが丁度いいんですから」
それはどういう、と言いかけて、耳に入った着信音。戦慄する僕をよそに天衣さんは電話に出る
「はい、天衣ですが」/